中高年の男性で頻尿、尿漏れ、残尿感といった症状がある場合、前立腺肥大症が疑われます。
前立腺の基本から前立腺肥大症まで泌尿器科専門医が解説します。
まず前立腺とは
ゼンリツセンってなんですか
男なら誰でもある前立腺、でも体の外から見えないし、どこにあるのか、何をしている臓器なのかよく分からないかたが多いかと思われます。
前立腺の解剖
前立腺は男性のみにある臓器です。クルミや栗くらいの大きさです。
前立腺は膀胱の下で尿道を取り囲み、骨盤の中に埋もれるようになっています。
イメージとしては栗くらいの小さな実が骨盤の奥深くにぽつんとある感じです。
手術の時に前立腺を摘出するには、骨盤の奥深くから前立腺を掘り起こしてくるようになります。
前立腺の真後ろには直腸があり、肛門からお尻をいれると前立腺をブニブニと触れることができます。
前立腺の役割
前立腺の周りを尿道括約筋や骨盤底筋といった筋肉に囲まれていて、機能的に排尿のストッパーのような構造になっています。
また前立腺は”腺”と名のつく通り、前立腺液といわれる液体を産生、分泌し精液の一部を作り、精子の運動を円滑にする役割をします。子孫繁栄に重要な役割ですが、年齢を重ね受精の必要のない年齢になると、本来の役割を失ってしまいます。
それどころか、年齢とともに前立腺が肥大すると尿道を圧迫し排尿障害の原因になったり、前立腺癌になったりと、高齢者にとって厄介な存在になっていきます。
前立腺肥大症
中高年男性を悩ます前立腺肥大症
中高年になると、男性ホルモンのテストステロンや、テストステロンが変化したジヒドロテストステロンといったホルモンバランスの変化や、慢性炎症といったことが背景に前立腺肥大が始まります。
前立腺肥大は40歳代に始まり、50~60歳台に急速に進行します。
正常の前立腺は栗やくるみくらいの大きさで20cc以下ですが、前立腺肥大になると50ccくらいのミカンや鶏卵くらいのサイズになり、時に100cc以上の巨大な前立腺もあります。
一口に前立腺肥大といいますが、実際いままでの前立腺肥大の手術を見てきて、前立腺肥大は前立腺の中に大小の沢山のこぶ(結節)ができた状態だと感じました。
ですので、同じような前立腺の大きさでも、尿道の圧迫のされかたは人それぞれになります。
前立腺はさほど大きくなくても、尿道への圧迫が強い方がいます。
中葉肥大・中葉突出といい、膀胱の出口のところで、前立腺の結節がラムネの栓のごとく、尿の通り道に蓋をしてしまうことがあります。エコーの所見で、膀胱に向かって前立腺が突出していることでわかります。
また、前立腺が大きいからといって必ずしも排尿の症状を来たすとは限らず、
人間ドックで前立腺が大きいと言われました。なにも症状がないのですが、、
というかたがいますが、前立腺が大きいだけでは治療の必要はありません。
前立腺が大きいほど、排尿の症状を起こしやすいですが、前立腺が大きくても症状がなんともないかたも沢山います。
前立腺肥大症の症状
中高年男性に頻発する病気として前立腺肥大症があります。
前立腺が肥大することで、
- 尿の勢いが悪くなり、時間がかかる
- 頻尿
- 残尿感がある
- キレが悪くちょい漏れする
といった症状がでてきます。
突然尿がでなくなる、尿閉
尿が肥大した前立腺のすきまをちょろちょろと出ている状態から、さらに一歩すすんだ状態になると、前立腺が膀胱の出口を塞いでしまい、ぴたっと尿がでなってしまします。
これは「尿閉(にょうへい)」と呼ばれ、お腹がパンパンに張って苦しくて、大概の方は救急車を呼びます。
前立腺が大きい人の方が尿閉になりやすい傾向があります。長時間の座位、飲酒、時には咳止め薬、感冒薬、精神安定剤、不整脈のくすりなどが誘因になることがありますが、特に誘因がなくある日突然尿閉になるかたもいます。
尿閉になった時は、緊急処置として尿道からカテーテルを挿入して、膀胱にたまっている尿を排出させる必要があります。尿を完全に排出させたら、すぐにカテーテルを抜いてしまう方法(導尿)と、しばらく尿道にカテーテルを挿入したままにする方法(尿道カテーテル留置)があります。
一旦尿道カテーテルが入ってしまうともう抜けませんか??
尿道にカテーテルが入ってしまった場合は、しばらく前立腺肥大症の内服薬を飲んでみて、前立腺の環境を良くしてから一度管が抜けることができるかチャレンジしてみることになります。
それでも排尿ができる見込みが低そうな場合は手術を検討することになります。
前立腺肥大の方が気をつけたほうがいい食習慣など
食生活については、十分なエビデンスがあるわけではないですが野菜・豆類の摂取は前立腺肥大に良いとされています。逆に穀物、肉類は前立腺肥大のリスクを上げるようです。
アルコールは適量の摂取なら問題ありませんが、飲み会などで飲みすぎたことが契機で、急に尿が張ってでなくなる尿閉を発症しやすくなるので、飲み過ぎには注意しましょう。
市販の風邪薬も、排尿をしずらくなる成分が含まれており、風邪薬を飲んだことが契機で尿閉になるかたも多いので、前立腺肥大症の方は十分留意して飲みましょう。
前立腺肥大症の治療
前立腺肥大症の検査
前立腺肥大症の検査として、まず前立腺の大きさや形状を観察するためにエコー検査を行います。
また前立腺癌との鑑別のためにPSA検査を行います。
前立腺肥大症の薬物治療
前立腺肥大症の薬物治療は、まず前立腺により圧迫された尿道の抵抗を改善させるα1受容体遮断薬のハルナール、フリバス、ユリーフのどれかを処方します。
大きな副作用はあまりないですが、人によっては鼻づまり、頭痛、射精障害があります。
また5α還元酵素阻害薬 アボルブは肥大した前立腺の容量を小さくすることができる薬剤です。5α還元酵素阻害薬は、前立腺内のジヒドロテストステロン濃度を低下させ、前立腺を小さくする働きがあります。
ただ、効果発現まで半年以上かかるので即効性はないのが難点です。また前立腺癌の腫瘍マーカーであるPSA値を下げるために、もともとPSAが高いかたは採血結果をみるのに注意が必要です。
その他、膀胱の血流を改善するザルティアや過活動膀胱の治療薬を用いることがあります。
また夜間頻尿の症状がメインの場合、夜間頻尿の治療薬も考慮します。
CMでやっているユリナールやボーコレンは効くの?
市販の薬局で扱っている頻尿の薬は、漢方薬になります。
前立腺に特異的な効能があるわけでなく、症状緩和になります。
病院でも牛車腎気丸や八味地黄丸といった漢方薬を処方することがありますが、まずはα1ブロッカーを使って、それに併用することが多いです。
ノコギリヤシはどう?
ノコギリヤシはサプリメントの一種で、有効性あるとする報告もある一方、あまり効果がないという報告もあるようです。
排尿の症状が強い場合は、漫然と市販薬やサプリメントを飲むのでなく、泌尿器科に受診することをお勧めします。
前立腺肥大症に対する手術の適応
薬剤による治療の効果が不十分な方や、尿閉になり尿道カテーテル留置となった方、残尿が増え続けるかたは手術を検討することになります。
前立腺肥大症に対する手術は、経尿道的前立腺切除術(TUR-P)や経尿道的レーザー前立腺核出術(HOLEP)といった尿道から内視鏡を挿入し、尿の通り道を邪魔している前立腺を除去する手術になります。
内視鏡の手術とはいえ、失禁や尿道狭窄といった合併症が起こりえますし、やはり手術ですので身体への負担も相応になるので、患者さんとしてはなるべく手術は回避したいことかと思います。
ただ、手術を先延ばしにすると、排尿障害が続き膀胱が伸びきってしまい膀胱が元通りにならなくなる恐れがあります。手術を少しでも考えている方は、そこまで至る前に手術を行うことが重要です。
またどうしても手術を回避したいかたは、自己導尿手技を習得してもらうこともできます。
当院では患者さんと親密に相談しながら、手術を含めて最適な治療方針を相談していきます。
以上、前立腺肥大症についてでした。
おしっこのことでお困りならひとりで悩まず泌尿器科へ。
文責 若松河田クリニック 中西雄亮