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過活動膀胱 腹圧性尿失禁

  • 何回もトイレに行く
  • 急に尿がしたくなりトイレに駆け込む
  • トイレまで我慢できず漏れる(切迫性尿失禁)

といった症状は過活動膀胱が疑われます。一方、

  • お腹に力を入れるときや、笑った時に尿が漏れる

という症状は腹圧性尿失禁といい、過活動膀胱とは治療法、治療に用いる薬が異なります。
過活動膀胱や切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁の原因や対策について泌尿器科専門医が解説します。

目次

過活動膀胱

過活動膀胱の症状

過活動膀胱は、膀胱に尿が十分に溜まっていないのに、膀胱が自分の意思とは関係なく勝手に収縮するという病気で、急に強い尿意が起こり我慢ができず(尿意切迫感)、トイレに何回も行くようになります。
また、尿が間に合わずにもれてしまうこともあります(切迫性尿失禁)。
頻尿、尿意切迫があることで、常にトイレがどこにあるかが気になったり、バス旅行や長時間の会議、観劇・映画館に行くことを躊躇したりと日常生活に支障をきたした状態になります。

過活動膀胱の原因

過活動膀胱の原因は様々です。
排尿に関する指示が脳から出て、神経が脊髄から末梢神経を経由し膀胱まで分布し、膀胱のなかに尿を溜めたり排出したりするコントロールをしています。
神経系のどこかに支障が起きたり、膀胱自体に問題があると過活動膀胱になりうるので、脳卒中、パーキンソン病などの脳や脊髄の病変や、糖尿病による末梢神経の問題、膀胱への血流の問題や炎症などの多くの病態が原因になります。
加齢による老化現象として起こったり、原因が不明(明らかな基礎疾患がない)であったりすることも少なくありませんが、膀胱癌など大きな病気が隠れている場合もあります。

骨盤臓器脱と過活動膀胱について

骨盤臓器脱は、骨盤底筋が緩むことで、骨盤にある臓器である子宮、膀胱、直腸などがだんだんと下がってきて、膣から体外に出てしまう病気をいいます。 膀胱瘤、直腸瘤、子宮脱、直腸瘤、膣断端脱などがあります。
症状としては、異物感(何かが下りてくるような感じ)、腰痛、重い感じ、引っ張られる感じの他、排尿に関する症状をきたすこともあり、排尿困難、排便困難、尿意切迫感、切迫性尿失禁をきたします。
骨盤臓器脱か過活動膀胱の原因となっていることがありますので、過活動膀胱ガイドライン2022年においても、改善の乏しい女性過活動膀胱患者のかたに骨盤臓器脱がないかをチェックすることを勧めています。

過活動膀胱に伴う尿もれ~切迫性尿失禁

切迫性尿失禁は、尿意切迫感がさらに悪化し、トイレに行くまでに間に合わず漏れてしまう状態です。
つまり重度の過活動膀胱と言えます。
尿もれを伴う過活動膀胱は女性に多く、過活動膀胱を有する女性の6割は尿もれを伴っているといわれています。

腹圧性尿失禁

立ち上がる、ジャンプのような日常動作や笑ったり、咳やくしゃみなどおなかに力が入った時に起こる尿漏れを腹圧性尿失禁と言います。女性の尿失禁の中で最も多い尿失禁です。

腹圧性尿失禁の原因

尿道を締める力が弱いため、腹圧がかかるととで尿が漏れてしまうことが原因となります。尿道を締める力は、骨盤底の筋肉の協調運動で制御されていますが、妊娠・出産で骨盤底筋に緩みが生じ、尿漏れしやすい状態になります。
また肥満、便秘など腹圧がかかることが危険因子となります。

混合性尿失禁

腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁が合わさった状態を混合性尿失禁といいます。
尿意切迫感だけでなく、運動・くしゃみ・咳にも関連して尿が漏れる状態です。
頻度としては、腹圧性 49%>混合性 29%>切迫性 21%と言われています。

GSM(閉経関連女性器症候群)と過活動膀胱
過活動膀胱や尿失禁の原因として、更年期によるエストロゲンの低下も一因となっていると言われています。
閉経後に女性ホルモン(エストロゲン)が低下すると陰部、膣に萎縮性変化が生じ、それに伴う泌尿器、生殖器の症状をまとめた病態を閉経関連女性器症候群:GSMといい2014年より提唱されるようになりました。
GSMは、エストロゲンの低下により膀胱の筋肉に萎縮性変化や感受性亢進といった変化が生じることで、頻尿や尿意切迫感といった排尿症状や外陰部の不快感を生じます。また膣内pHの上昇により膣内常在菌が変化し、膀胱炎を繰り返す原因になる可能性も言われています。 

治療方法

行動療法(生活習慣改善、体操)

過活動膀胱、腹圧性尿失禁はともにまずは行動療法(生活習慣改善、体操)を試みてみます。

減量・禁煙

体重増加による骨盤底筋の負荷を改善されるため、運動や減量は切迫性、腹圧性ともに失禁に効果があります。
喫煙も失禁を悪化させるので、失禁を改善したいかたは禁煙しましょう。

カフェイン・アルコール摂取制限

カフェインやアルコールの摂取を控えることで過活動膀胱に有効だったという報告があります。
カフェインはコーヒー、お茶、エナジードリンク、コーラなどに含まれています。

膀胱訓練

トイレに行きたくなってもすぐに排尿せず、我慢することを膀胱訓練といいます。過活動膀胱に有効です。
少しずつ排尿間隔を延長することにより膀胱容量を大きくしていきます。初めは短時間から徐々に間隔を延ばしていき、最終的には2~3時間の排尿間隔を目指します。

骨盤底筋体操

腹筋に力が入らないように膣や肛門を締めるようにする体操です。腹圧性尿失禁、過活動膀胱ともに有効です。
朝起きた時や電車の待ち時間などやるタイミングを決めて習慣化し、続けることが重要です。

過活動膀胱の薬物治療

病院を受診されますと、尿検査、腹部超音波検査にて、腎臓や膀胱に異常がないか、膀胱に尿の残りがないか、尿に汚れがないかなど基本的な検査を行います。
過活動膀胱に対する薬物治療は効果がかなり期待できます。
β3作動薬という膀胱容量を増大させる薬と、抗コリン薬という異常な膀胱収縮を抑制する2種類の薬があります。
効果不良な方は両方の薬剤を同時に併用する場合があります。

腹圧性尿失禁の治療

薬物治療として、β2アドレナリン受容体作動薬(クレンブテロール)を使いますが、骨盤底筋体操も並行して行うのが重要です。
症状の強い腹圧性尿失禁のかたは内服治療では改善が乏しいです。

尿失禁と磁気刺激療法について

尿失禁に効果的な骨盤底筋体操ですが、なかなか継続が厳しいのが難点です。
そこで機械や電気を用いて効率的に骨盤底筋を刺激する方法として、電気刺激療法や磁気刺激療法があります。(これらの治療法は神経変調療法と呼ばれます。)

服を着たままできる骨盤底筋チェア、磁気刺激療法はガイドラインにおいても高いエビデンスが実証されています。

推薦グレードA(強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる)
電気刺激と機序は同様であり、着衣の状態で刺激することができる。(中略)本邦では、薬物療法抵抗性の(あるいは薬物が使用できない)尿失禁を伴う成人女性過活動膀胱患者が保険適応である

女性下部尿路症状ガイドライン(第2版)2019

磁気刺激療法の原理は、体表面上に置いた磁気コイルにパルス電流を流し磁場が生じることで、骨盤底筋を非侵襲的に刺激します。

磁気刺激療法と保険適応

ガイドラインでも磁気刺激療法は勧められて、保険適応にもなっていますが磁気刺激療法を保険診療で行っている病院・クリニックはほとんどありません。
保険適応にするのは泌尿器科の常勤医が2名以上いる施設に限られているので、普通のクリニックでは保険適応にできないのです。
また、日々手術を行う病院では、尿もれの治療まで手が回らないのが実情なのもあります。
そのような事情で現在流通している磁気パルスチェアの多くは保険適応に必要な医事承認はありません。

当院でも磁気刺激療法は自費治療でおこなっています。

磁気刺激療法 Q&A 

どのような尿もれに磁気刺激療法は効きますか?

切迫性、腹圧性の尿失禁のどちらにも有効です。
データとしては、​腹圧性尿失禁には有効率 90%、治癒率 29〜53%で​切迫性尿失禁には有効率 50~85%、治癒率 25%となっています。(上記ガイドラインより)

何回くらい治療が必要ですか?

まずは1週間に2回、6〜8週間の治療を行いましょう。
初めは効果が実感できない方も継続すると徐々に効果がでてきます。

治療をやめてしまうともとに戻りますか?

磁気刺激療法は治療をやめたあとも持ち越し効果(carry over effect)があることが報告されています。
つまり、治療をやめた後も長期的に効果が持続します。
初めは週に2回だったのを徐々に週に一回、2週に1回と間隔を伸ばしていきましょう。

以上、女性の過活動膀胱、腹圧性尿失禁について解説しました。
症状にお困りの方は泌尿器科へご受診ください。

文責 若松河田クリニック 中西雄亮

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