夜トイレに何回もいって全然寝れた気がしないよ
と夜間トイレに何回も行き、生活の質を大きく下げる夜間頻尿。
夜間頻尿の原因や対策を泌尿器科専門医が解説します。
まず、夜間頻尿とは
夜間頻尿の定義
夜中寝ている時に、トイレで目が覚めることを、夜間頻尿といいます。
夜トイレに起きるのは年齢のせいと諦め、仕方なく受け入れている人も多いのではないでしょうか。
医学的な定義的としては、夜間に1回以上トイレに行くために目が覚めて、日常生活に支障をきたした状態を夜間頻尿といいます。
とはいえ、夜1回だけだったら正常の範囲内ともいえるので、実際の診療の現場では、だいたい夜間2回以上トイレに行くようになると「少し多いな」ということになり、さらに、3回、4回とさらに夜間のトイレの回数が増えると日常生活に支障を来した状態になり、転倒や骨折のリスクもあがります。
夜間頻尿で困っているかたはとても多く、頻度としては、40歳以上の男女の約4,500万人が、夜間に1回以上トイレのために起きているといわれています。
夜間頻尿の原因
夜間頻尿の原因はたくさんあり、人それぞれ原因が異なります。ひとりの患者さんに複数の原因が重なることがあります。
- 加齢性変化
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加齢に伴い、夜間のトイレの回数が増えるのは自然なことではあります。
下記のようなホルモンや循環のバランスの変化でどうしても加齢とともに夜間頻尿になりやすいです。抗利尿ホルモン(ADH:バソプレシン)の減少:脳の下垂体から抗利尿ホルモンが放出されており、このホルモンは腎臓に作用し、水分の再吸収を促進するので、尿の量が減るようになります。若いときは抗利尿ホルモンが夜間多く分泌され夜間の尿量が少なくなるように調整されていますが、加齢とともにこのホルモンのバランスが変化し、夜間にも日中と同じようなペースで尿が作られるようになってしまいます。
循環の悪化:加齢により心肺機能の低下から全身の血流の循環の停滞があり、下肢がむくみます。下肢の水分が、夜寝た時に身体に戻ってくるので、就寝後の尿量が多くなります。
膀胱容量の低下:通常ですと膀胱に尿が250ccほどたまると尿意を感じるようになりますが、前立腺肥大や過活動膀胱などの原因により膀胱容量が小さくなることでトイレの回数が増えます。
- ストレス、睡眠障害
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ストレスが多い生活を送っているかたも夜間頻尿になり易く、特に若い方に多いです。
ストレスに晒されていると、脳が半覚醒した状態になり、眠りが浅くなります。
眠りが浅くなることで、途中で目が覚めてしまい、膀胱内圧があがることでトイレに行きたくなります。
そうなると、寝付けないからトイレに行ってしまい、トイレに行くから眠れないと悪循環になってしまいます。
そういったことがいつの間にか習慣化してしまい、習慣性頻尿といいます。
また就寝前にスマホを見すぎるのも、眠りが浅くなり、夜間頻尿につながります。 - 肥満、糖尿病
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肥満のかたは、内臓脂肪が膀胱や尿道の周りにも多くなることで、尿の流れが圧迫され、頻尿になることがあります。 また、肥満の方に多い睡眠時無呼吸症候群や糖尿病では、夜間頻尿になる傾向が強くなります。
睡眠時無呼吸症候群は、無呼吸の影響で睡眠が浅くなります。さらに、膀胱内圧が高まり尿を十分に溜めることができないために夜間頻尿になります。糖尿病は血糖値が高くなることで、体内で濃くなった血液を薄めようとするため、より多くの水分を摂ってしまい、夜間頻尿につながります。
当院で睡眠時無呼吸症候群の精査もできます。ご相談ください。
- カフェイン、アルコール摂取
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アルコールやカフェインは利尿作用があります。
夜寝る前にアルコール、カフェインを飲むと、夜のトイレの回数の増加につながります。
カフェインが含まれる飲み物は、コーヒー、お茶(緑茶、紅茶)、コーラなど多くの飲料があります。
夜間頻尿に対する対策
夜間頻尿に効果的な生活習慣
夜間頻尿は「歳とせい」と諦めないで下さい。
夜間頻尿に対する対策について、まずは以下の生活習慣を試してみてください。
- 生活習慣を整える
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まず基本的なことですが、朝起きて陽の光を浴びて、規則正しい生活を送りからだのリズムを整えましょう。
そしてバランスのよい食事をとりましょう。
ぐっすり眠ることで快眠につながり、夜間頻尿も改善されます。
お仕事などでなかなか毎日規則正しく生活するのが難しいかたもいるかと思われますが、リフレッシュを心がけ、できる範囲で生活習慣を改善していきましょう。 - 食事、飲み物など
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コーヒーや緑茶などカフェインが含まれる飲み物には利尿作用があり、尿量が増えます。日中に適量飲むようにし、夕方以降は控えましょう。
塩分摂取も水分摂取が増えるので摂りすぎは控えるようにしましょう。
水分に関しては、寝る2~3時間前からは水分摂取は控えめにすることで夜間の尿量も少なくなります。 - 運動
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ウォーキングなど適度な運動をすることで、ほどよい疲労感を得ることができ、睡眠の質が高くなります。
ふくらはぎをマッサージすることで血液の循環がよくなり、末梢の水分が取ることができます。夕方ごろやお風呂に入っているときに行うのが効果的です。
足のしたにクッションをおいて足を挙上するのも効果的です。足をあげることで血液が心臓がもどるので寝るまでにたまっている水分を出し切ることができます。
泌尿器科に受診する?
以上のように夜間頻尿はどうしても加齢性変化の要素もあり、完全に改善するのは難しい部分もあります。
人それぞれ、同じ夜間頻尿の回数でも困り方が違いますので、一律に「夜◯回以上のトイレのかたは病院に受診を」という決まりはありません。
生活習慣など変えてみても、やはり夜間トイレに行く回数が多い方は泌尿器科に受診することをおすすめします。
夜間頻尿のくすり
病院に受診された場合は、問診や尿検査、腹部超音波検査などを施行します。
夜間頻尿の背景の要素として、過活動膀胱や前立腺肥大症、睡眠障害などどの影響が強いのかを診断していきます。
治療は、病状に応じた内服治療が中心となります。
過活動膀胱の診断の場合、β3受容体作動薬:ベタニス®(ミラベクロン)、ベオーバ®(ビベクロン)や抗コリン薬:ベシケア®(ソリフェナシン)、トビエース®(フェソテロジン)etc.を処方します。
男性で前立腺肥大症がある場合は、α1受容体遮断薬:ハルナール®(タムスロシン)、フリバス®(ナフトピジル)、ユリーフ®(シロドシン)、PDE5阻害薬:ザルティア®(タダラフィル)などを処方します。
これらの薬を使っても効果不良な場合は、抗利尿ホルモンを補充するミニリンメルト錠を使うことがあります。
もともとは尿崩症や夜尿症(おねしょ)で使っている薬ですが、2019年より夜間多尿にも適応になりました。夜間多尿とは、1日の尿量のうち夜間尿量の割合が若年成人では20%以上、65歳以上では33%以上のことをいいます。
しかし、ミニリンメルトは低ナトリウム血症などの副作用もあり、処方後に厳重に血液検査などでチェックしないといけませんので、他の薬が効かなかった場合に最後の手段として処方することが多いです。
またこの薬は、臨床試験で男性のみにしか効果がなかったので、保険適応があるのは男性だけです。
以上、夜間頻尿はひとりの患者さんに複数の原因が重なることがあり、全身的に複雑に絡み合っていることが多いです。排尿に関する問題がありましたら、ぜひとも泌尿器科を受診していただき、改善が得られる部分がないかご相談ください。
文責 中西雄亮