こんにちは。新宿区のライオンマークの泌尿器科、若松河田クリニックの 中西雄亮 です。
この記事は、健康診断や人間ドックで、PSAの高値を指摘されたかた向けに書いた記事です。
2023年の前立腺癌のガイドラインをもとに、監修し記事を作成しています。
PSAについて
PSAとは
PSAは前立腺特異抗原 Prostate Specific Antigenの略で、前立腺から産生されるたんぱく質であり、精液の中に混じることで精子の運動を助けます働きがあります。
そもそも前立腺ってなに?というかたは、こちらのページへ。
PSA検査とは、血中のPSAの数値を見る血液検査になります。
PSAは通常はあまり血中にないですが、前立腺の組織が壊れることで血中に放出されます。
前立腺癌では前立腺の組織が崩れていくので、PSAが上昇しやすく、そのためPSAは前立腺癌の腫瘍マーカーとして用いられます。
市町村によってPSA検診の対象は異なってきますが、新宿区では、50歳以上の男性のかたを対象に200円の自己負担金ありで行うことができます。人間ドックでは40歳以上のかたにも選択できることがあります。
なぜ50歳以上の男性全員にPSA検査をやらないの?
と思われるかもしれません。
前立腺癌診療ガイドライン2023では
転移癌罹患率低下,前立腺癌死亡率低下効果が得られることから,50 歳以上の男性に対してPSA検査による前立腺がん検診を実施することを提案するが,利益・不利益バランスに関する情報提供を行ったうえで個人の意向に従って実施することが好ましい。
前立腺癌診療ガイドライン2023
となっており、PSA検診により前立腺癌で死亡する確率は減らすことが分かっている一方、癌でない患者さんも多く拾い上げてしまうことで不要な検査や過剰な治療に繋がることが危惧されています。
私個人の意見としては、数多くの前立腺癌の患者さんをいままで見てきて、PSA検査をせず全身転移した状態で前立腺癌が見つかる方を多く見てきたので、やはり一度PSA検査を受けることをお勧めします。
当院でも頻尿などで受診された男性の患者様はPSAを行うことを勧めます。
PSAの異常値について
PSAが基準値を超える場合、すなわち4ng/mL以上になった場合に、専門機関受診を指示されます。
また年齢に応じたPSAの標準値が用いられることもあり、
50 〜64歳: 3.0 ng/dl、65〜69歳:3.5 ng/dl、70歳以上:4.0 ng/dlと、年齢により細かく区切ることもあります。
PSAが高い=前立腺癌?
PSAが高い=前立腺癌というわけではありません。
4ng/mLを超えていても癌ではないこともある反面、4ng/mL以下でも癌のこともあります。
前立腺癌以外にもPSAが高い場合に考えられる原因として、前立腺肥大症、前立腺炎などがあります。
前立腺が大きいだけでもPSAは普通の人より高くなってしまうし、射精など前立腺への機械的な刺激でもPSAは変動しますので、PSAが高いと指摘されたら、泌尿器科医の判断が必要となります。
PSAは万能?
PSA検査を行なっていれば前立腺癌を100%見つけられるかというとそうではありません。
稀にですが、PSAが正常値の前立腺癌もあります。
PSAは高くないけれども、直腸診(おしりから指をいれて前立腺を触る診察)をしてみると、前立腺がガチガチに硬くなっており、精査をしてみると前立腺癌だった、ということがあります。
あくまでPSAは前立腺癌早期発見の手段の一つと考えましょう。他の直腸診などの検査を組み合わせて、前立腺癌の発見をしていきます。
PSAを下げるにはどのような食生活にすればいいですか
とよく質問をうけます。
残念ながらPSAを下げる食事というのはありません。
そもそも「PSAが上がっている」ということ自体は悪いことではなく、その背景に癌があるかどうかというのが問題なのです。ですので、PSAを下げるために薬を飲む、ということも基本的にはありません。
PSAが高い場合の検査について
まずは泌尿器科に受診を
まず泌尿器科専門の施設を受診していただき、精密検査がさらに必要かどうか相談することが大切です。
一般的にはPSAをもう一度測定し、値の変動があるかみます。
超音波検査や直腸診で前立腺の大きさ、硬さを調べます。
超音波で前立腺が腫大していて、癌の疑いが低い場合、PSAが高いのは前立腺肥大の影響が強いと考え、まずは経過観察とすることも多いです。3〜4ヶ月ごとにPSAの変化をみることになります。
このようにPSAが高いからと言っていきなり前立腺針生検などの精密検査をするわけではなく、まず一呼吸をおくことが重要です。
PSAが高い人全員に前立腺針生検をして、前立腺癌と診断される確率は24%(つまり3割未満)だった、というデータがあります。
PSAが高い人の中で、ふるいにかけて行って、前立腺癌が疑わしい人に、後述する、MRI検査や前立腺生検など精密検査をすすめて
でもやっぱりあとからガンがあった、って分かると嫌だなー
と思われるかたもいるかもしれません。
もし前立腺癌だったとしても、前立腺癌は比較的進行がゆっくりなことがほとんどなので、数ヶ月の単位でいきなり癌が進行する心配はしなくて大丈夫ですので、そういったことを患者さんと十分説明して検査、治療を進めていきます。
前立腺MRI検査
次の段階としては、前立腺MRI検査を行います。
MRIはCTと同じように筒のような機械の中に入って行いますが、検査時間が30分前後と長いです。
なぜCT検査でなくMRI検査を行うの?
MRIは体内の核の動きを見るので、癌と正常組織の成分の違いを利用し、癌が疑わしいかどうかを知ることができます。
腎臓の癌などはCTで診断を行いますが、前立腺についてはMRIのほうが有用となります。
MRIを行えば前立腺癌の診断はつくの?
MRIでは癌の確定診断はつかないですが、癌がありそうかどうかある程度目安がつきます。
ただ、MRIをみて癌が疑わしそうだ、というのはあくまで主観的な判断になりますので、人によって判断が違ってくることがあります。
PSAの値やMRIの画像を総合的に考慮して、癌が疑われるようであれば前立腺生検が勧められます。
前立腺生検について
前立腺生検は股の間から、前立腺に向けて針を刺して、組織採取する生体検査です。
施設により入院を要したり、麻酔方法が変わってきます。
10から12箇所ほど前立腺全体に針を刺し、顕微鏡の検査で癌があるかどうかを調べます。
頻度としては少ないですが、尿路感染、尿閉、出血といった合併症があります。
生検の結果は、すぐに分かるわけでなく、一般的に1週間以上の期間がかかります。
生検で癌じゃなくて一安心、、、でも
前立腺生検をして癌があったら、病状や年齢によって手術や放射線、内分泌療法などの治療の相談になります。
監視療法や待機療法といって、治療をせず経過をみていくこともあります。
一方、前立腺生検をして癌がなかったらそれで終わりかというとそうではありません。
前立腺生検で癌が陰性でも20〜40%の前立腺癌が見逃されている可能性があるからです。
前立腺生検も確実な検査方法ではないので、癌が小さく針がうまく刺さらないことがあるのです。
そのため、前立腺生検後もPSAを定期的に経過観察していく必要があり、生検した後もPSAがさらに上昇する場合はもう一度生検を行うことも考慮することがあります。
まとめ
以上、PSAが高値となった場合の検査の流れについて解説しました。
不安なことがあれば、専門家に相談してみましょう。
文責 中西雄亮